「明日は当然来ないでしょ」オフィシャルロングインタビュー公開。

―4月にミニアルバム『LOBSTER』をリリースして以降、コロナ禍によって活動が制限されていたわけですが、どのような心持ちで過ごしていましたか?

斉藤雄哉(以下、斉藤):一番ショックだったのは、『LOBSTER』のリリースライブが延期になっちゃったことで、対バンもすごくよかったから、それは残念でした。でも、コロナじゃなかったら、今回のアルバムは完成してなかったかもしれない。ライブとかプロモーションがかなりなくなって、制作に時間がかけられたので。

田中慧(以下、田中):アルバムに入ってる“逢えない季節”は、コロナがあったからできたし。

荒谷翔大(以下、荒谷):自粛期間の中で作ったから……おかげさまっていうかね(笑)。

野元喬文(以下、野元):“しあわせ”のミュージックビデオを自分たちで作ったり、あの期間があったからこそできた新しいことも結構あって、自分としては楽しかったです。

 

―リリースも続けていたし、ライブ配信企画「4 Week YouTube Premieres Series」もありましたよね。特に7月に公開された「LOBSTER PREMIERE LIVE AT LIQUIDROOM」は演出含めて印象的でした。

荒谷:あれは結構大変でした。演奏を一発で録るっていうのもそうだし、ドラムは初めてクリック使ったしね。

野元:初めての試みを結構やったので、緊張感がすごくて、現場にいた人たちみんな同じ気持ちだったと思います。公開されたときは映像を観るだけで緊張したけど、最近になってやっと、楽しかったなと思えるようになりました。

田中:8時間くらいぶっ通しで演奏したしね。

荒谷:ちょっとピリピリはしたけど、演出も前からやってるチームだったので、和気あいあいとしていて、ライブというよりは、映像作品を作ったって感じですね。

 

―その完全版もアルバムの初回限定盤に収録されるそうですね。あとは、8月に“天神”が先行配信されて、「#天神ジャック」という企画も行われました。

荒谷:もともと高校生くらいに作った曲で、その前に出した“トキメキ”も同じくらいに作った曲です。ただ、“トキメキ”は今回アレンジするにあたって歌詞とかを結構変えたんですけど、“天神”はわりとそのままで。歌詞は天神だけではなく、もっと大きな意味で福岡の街をイメージして書いていて、ただ“天神”は響きもいいので、タイトルにしました。

 

―“トキメキ”では〈ぎゅっと思い出す 貴方は幻〉と歌われていて、“天神”でも〈さよなら またね 幻〉と歌われていますが、「幻」という言葉は荒谷くんにとってどんな意味があると言えますか?

荒谷:何でも自分たちの捉え方次第で見え方が変わるっていうのは、言ったら、幻なのかなって……たぶん、幻が好きなんだと思います(笑)。曲を書くときに、最初は自分の中の主観的なイメージがあるけど、それを聴いたメンバーにはまた違うイメージが生まれて、曲が変わって行くから、自分の思ってることは幻に等しいというか。そういう感覚は、作品を作る人みんな持ってるんじゃないかなって。

 

―そんな“トキメキ”と“天神”も収録されている『明日は当然来ないでしょ』ですが、めちゃめちゃいいアルバムですね。『LOBSTER』が初めてスタジオ録音を経験した作品だったのに対して、今作はそれ以前のDTMによる音像や音色の作り込みと、スタジオ録音の良さが融合したような印象を受けました。

荒谷:『LOBSTER』でスタジオ録音を経験した上で、家でみんなで話しながら作って、アレンジまで固めちゃう方が個人的には好きだなって思ったりして。なので、みんなとも話して、次の作品はまずちゃんとアレンジを考えて、ほぼほぼ完成させた状態でスタジオ録音したいねって、『LOBSTER』を作り終わってすぐに決めていたので、それを実行しました。

斉藤:『LOBSTER』を作って、レコーディングスタジオの使い方がわかったし、家で作る良さは前からわかってたから、今回すげえやりやすくて、楽しかったです。

荒谷:家で録ったものでも、使えるものはそのまま使ってね。

斉藤:そうじゃないものを弾き直したりはスタジオでやって。

野元:レコーディング前の制作のときは、毎日雄哉くん家に行って、パソコン見ながらああだこうだ言って、一番最初の自主制作でEPを作ってた頃を思い出したりもして。ただ、最初に立ち返ったようで、実際は新しいこともやってて、面白い作り方だったなって。

 

―田中くんはどんなアルバムになった印象ですか?

田中:特にコンセプトがあったわけじゃないですけど、曲順とかも含めて、『LOBSTER』よりまとまりがあるなって。『LOBSTER』はそれまでライブで披露してた曲を音源にしたみたいな感じだったけど、今回は「アルバムを作るぞ」って作り始めたので、何となく流れは意識して作っていて、まとまりがあるものになったと思います。

 

―10月には“rendez-vous”が先行配信されていて、打ち込み寄りの音像が初期を彷彿とさせながら、明らかに新しい作風になっていて、本作をひとつ象徴してるかなと。

荒谷:もともとは2018年に『SHRIMP』を出した後くらいに作った曲で、結構引っ張り出してくるのが好きっていうか、ストックの中から、「そろそろちゃんと曲にしたいな」っていうのを出してきた感じです。この曲はたぶん歌詞先行で、夜に家の近くにある室見川のあたりを歩いてたときに浮かんだ情景から膨らませていきました。最初に作ったデモのガレージバンドのドラムマシンのスネアの音が好きだったから、その音色を生かしつつ、もうちょっと迫力が欲しかったので、生音を重ねてます。

野元:本物のドラムマシンを初めて触ったので、それがめっちゃ楽しくて。

斉藤:スタジオに本物のTR-909があったんで、それに差し替えたんです。

田中:ベースは途中までシンセベースで、最後にエレキベースを弾いてるんですけど、ギターもベースもファズをかけて、ギュインギュイン言ってて……何であんな感じになったんやっけ?

荒谷:もともとギターは入ってなくて、雄哉の家で入れようってなったときに、「最終的にドカンといきたいね」ってなって(笑)。

斉藤:俺が「パワーコードでファズかけようや」って(笑)。

荒谷:で、「悪魔的やねえ」ってなって、さらに同じフレーズを歪んだ音で重ねて(笑)。

 

―その流れでベースも歪ませたと。洗練されたアレンジの一方で、ところどころアイデア一発な部分も出てきて、それが常に同居してるのが面白いなって。

田中:ベースも一発録りだったしね。だから、ちょっと変でも、「これがいいやん」って……あのときのテンション変やった(笑)。

荒谷:何なんやろな、あの衝動。

斉藤:めちゃくちゃになるときって、みんな謎のテンションで、一瞬でレコーディングが終わるんです。

荒谷:慧が作った“cart pool”もそんな感じだったかな。打ち込みのドラムに対して、のもっちゃんが生ドラムを叩いて重ねて、あれもその場のノリで。

田中:あの曲はもともと年明けくらいにガレージバンドで遊んでて、手癖みたいなベースのフレーズにドラムをつけてみたら意外といいなってなって。すでにアルバム用のデモを荒ちゃんが何曲か上げてたけど、それと並べてもよさそうな気がすると思って、最初はインストのつもりで作ってたんです。でも、「言葉があった方がいいから、慧書いて」って言われて、歌詞なんて書いたことなかったんですけど、頑張って書きました。

 

―アルバムの中のいいアクセントになってますよね。

田中:そう思って作ったところもあります。いつも0を1にするのは荒ちゃんだから、違う誰かが作ったものがアルバムに入ると面白いんじゃないかなって。

 

―“rendez-vous”にしろ、“cart pool”にしろ、やっぱりyonawoの楽曲はループを基本にしたものが多いですよね。

荒谷:ガレージバンドでデモを作るときは、鍵盤を弾いて、それをループさせて作るのが一番楽だし、面白くもあるし、あとは単純に、海外の好きなアーティストもループが多いから、そこは影響を受けてると思います。The 1975、Rex Orange County、スティーヴ・レイシー……小袋成彬さんとかもそんな感じだし。

斉藤:80年代の黒人がやっとる音楽とかも、わりと同じコードのループが多いし。

荒谷:スティーヴィー・ワンダーも同じパターンの繰り返しだったり、海外はそういうの多いじゃないですか? その影響はめちゃくちゃあります。ただ、最近作ってるのはいろいろコードが動くのが好きで、幅が広がってきた気がしますね。“good job”とか“蒲公英”とか、ちょっと前に作ってるのは大体ループで、コードがあんまり出てこない、すっきりした感じが好きだし、でも“ムタ”とかはコードにこだわって作っていて。最近だと、ブルーノ・メジャーとかも面白いコードばっかり出てくるし……でもあれもループやね。

斉藤:もともとJ-POPとかあまり聴いてないから、Bメロとかないもんね。どれがサビかわからんかったりもするし(笑)。

田中:でも“天神”はわかりやすいよね。どうしたの? 最後に転調までして。

荒谷:あれ作ったときは転調って概念わかってなかった(笑)。

野元:“天神”はビートも印象的で、結構ベースに合わせてバスが動いたり、スネアがあるところとないところがあったりして。ループなんだけど、ちゃんとメリハリがあって、面白いなって。

 

―ギターに関しては、アルバム全体でどんなポイントがありましたか?

斉藤:前の作品とは別人というか、ほとんど歪ませてて、どの曲も1~2回くらいしか弾いてないんですよ。ほとんど一発で、弾き直しナシ、みたいな。だから、ミスってるのもあるんだけど、それがいい感じにハマってたりして、アドリブも多いです。

 

―その方向性の変化はなぜ?

斉藤:気分かなあ(笑)。“rendez-vous”で最初に歪ませて、そこから全部歪ませたくなって、デモを作るたびに、どうやって歪みを入れようか考えるようになって。あと録音してて思ったのが、結構アコギ好きだなって。今回アコギと歪んだギターばっかり使ってて。

 

―確かに、アルバム後半はアコギの音色が目立ちますね。

斉藤:歪みだけだとやかましいし、暑苦しいけど、アコギを入れるといい感じになるんで。“rendez-vous”でもクラシックギターを使ってたり、“蒲公英”でもうっすらずっとアコギが乗ってて、あんまり聴こえないけど、でもそれが大事だったり。

 

―“蒲公英”はホントいい曲ですよね。

斉藤:めっちゃ好きです。

荒谷:俺誕生日が12月で、ばあちゃんも12月なので、バースデーソングじゃないけど、誕生を祝う歌として作りたくて。これも“rendez-vous”と同じで先に詞があって、コードのループに乗せて行って、しっとり歌い上げるような曲にしたくて……最後は叫びよる。

斉藤:あとマック・ミラーかなんかを聴いて、ループのコーラスがうっすら流れとったらいいよねって。

 

―あのコーラスも非常に印象的で、アルバムの最初のクライマックスと言える曲だと思います。それでいうと、後半は“麗らか”から“close to me”への流れで非常にカタルシスを感じました。ロマンティックで、すごくいいなって。

荒谷:最初から繋げたいなっていうのが構想としてあって、曲としては別々に作ったんですけど、“麗らか”の最後のコードと“close to me”の最初のコードを一緒にしたんです。“麗らか”は最初アウトロがあったんですけど、すぐ“close to me”に行くのが自分的にしっくり来て、「これしかない」って思いましたね。

 

―インパクトのあるアルバムタイトルは、荒谷くんが書いた短編を読んだ斉藤くんから、「小説のようなタイトルはどうか?」というアイデアが出て、荒谷くんが決めたそうですね。その短編もCDブックレットに掲載されるそうで。

荒谷:小説を読んだときに、自分でも書いてみようと思って、結構前に書いてたんです。で、あるとき雄哉に見せたら、「小説みたいなアルバムタイトルがいい」って話になって、村上龍の『限りなく透明に近いブルー』とか、ああいう感じがいいと思ったので、『明日は当然来ないでしょ』っていうのを考えたら、みんな気に入ってくれて。だから、もともとアルバムタイトルと短編は結びついてなかったんですけど、雄哉が「短編もアルバムに載せよう」って言ってくれて、だったら、この短編のタイトルも『明日は当然来ないでしょ』にして、ちょっと書き直して。それまでは自分の中でもこの短編で何が言いたいのかフワフワしてたんですけど、書き直したらしっくり来て、腑に落ちたから、よかったです。

 

―短編を読ませてもらいましたが、わかりやすいストーリーがあるわけではなく、最初に「幻」の話をしたように、読み手それぞれの解釈ができるような内容だなって。

荒谷:自分の中には「こう感じてくれたらいいな」っていうのはあるんですけど、それを自分から言うことはないと思います。『明日は当然来ないでしょ』っていうタイトルも同じで、「え、どういうこと?」ってなってくれたら嬉しくて、自分なりに考えるでも、誰かと話したりするでもしてくれたらなって。

 

―今のコロナ禍の状況と結びつける人もいるでしょうし、いろんな解釈ができますよね。僕がこの短編であり、今作の歌詞を見て思ったのは、どこかSFっぽいというか、「宇宙」「地球」「星」「月」といった単語がよく使われていて、日常がベースにはなってるんだけど、現実にありそうでなかったり、状況が急に飛躍したりするのが面白くて。

荒谷:宇宙とか月とかって、確かに飛躍してるというか、遠いもののようにも感じるけど、でもそれが体の一部としてあるようなイメージでも面白いかなと思っていて。さっき言ってくださった「現実にありそうでなさそう」っていうのと同じで、「遠いようで実は一体」みたいな、そういう解釈で楽しんでもらってもいいのかなって。

 

―さっき挙げたような言葉が頻出するのは、何か理由ってあるんですか?

荒谷:小さい頃から物理学者になりたくて、とにかく宇宙が好きだったんです。「ブラックホールに吸い込まれて死にたい」みたいなことを思ってたり、外の世界は広いけど、自分の中にもう一個宇宙があったら面白いというか、一体だなって意識があって、曲にもそういう自分のちょっとした思想が盛り込まれてるのかなって思います。

 

―もうひとつ思ったのが、別れを連想させる曲が多いなってことで。そのままずばり“生き別れ”という曲もあるし、“逢えない季節”にしても、コロナ禍でできた曲だって話だったけど、それこそ生き別れの曲のようにも聴こえるし。

荒谷:最初はコロナをきっかけに書こうと思ったんですけど、結果あんまり関係なくなったので、それはその通りというか。俺の曲にはそういう別れの気配とかイメージがほとんど全部の曲にあると思っていて、いつもそれを感じてるんだと思います。「寂しいけど心地いい」みたいな感覚がめちゃめちゃあって、それを曲にしたくなるのかもしれない。

田中:“麗らか”は主人公が……語り手がいるとして、その人が過去を懐かしんでる感じがするっていうか。他の曲はそのときの別れの気持ちだけど、“麗らか”は別れをだいぶ通り過ぎて、おじいちゃんが語ってる感じ。ノスタルジーが漂ってるっていうか。

荒谷:あー、結構死んだ状態で書いてるっていうか、死んだつもりで書いてるようなのも多いかも。「テーマ」とまでは行かないけど、どんな「私」でも聴けるものがいいなと思っていて、今生きてる私でも、いろんな時代に生きた私でも、今から生まれる私でも、どの私でも聴けるっていうか。

斉藤:ちょっとわかる。荒ちゃんの歌詞さあ、自分はあるけど、自分の体はなくない?

荒谷:極力自分を消したいんです。曲を書くときは、広い意味での「私」になりたい。そういうのは大きなテーマとしてありますね。

 

―アルバムは“独白”で始まって、“告白”で終わってるわけだけど、これも広い意味での「私」の独白であり告白というか。もちろん、歌詞を書いてるのは荒谷くんなので、荒谷くんが主体ではあるけど、でも必ずしも「私」は荒谷くんではなくて、聴き手それぞれの「私」が立ち上がる。それがこのアルバムの読後感にも繋がっている気がします。アートワークは今回も野元くんが担当していて、何かここまでの話とのリンクはありますか?

野元:今回僕が書いたのはこの赤ちゃんのイラストだけで、応募してもらった中から(野元の描いたイラストを自由にアレンジする「yonawo塗り絵チャレンジ」を開催)みんなで選んだやつなんですけど……ちなみに、これは正確には赤ちゃんじゃなくて、これが「私」なんです。荒ちゃんともいろいろ話ながら作って行ったんですけど。

 

―なるほどなあ。なおかつ、「遠いようで実は一体」という話ともリンクしますよね。

野元:そうですね。この周りのやつもすごく気に入ってて、それぞれ個性があって、他の星のようにも見えるんですよね。お互い主張し合ってなくて、まとまってるし、企画をやってよかったなって思いました。

 

―楽曲自体も素晴らしいし、短編やアートワークも含めて、いろいろな想像を膨らませることができる、非常に味わい深いアルバムになったと思います。今作を作り終えて、今後の活動についてはどのように考えていますか?

荒谷:今みんなで話してるのは、福岡にプライベートスタジオを作って、みんなでそこに籠って作りたいなって。ドラムとかも思いつきで叩けるような環境があれば、曲調の幅も広がるだろうし、これまでは基本一人で作ることが多かったけど、みんなでゼロから曲を作ることもできると思うので、早くそういう環境を作りたいですね。

 

Interview & Text by 金子厚武